兎村彩野|Illustrator / Art Director

もし自分以外の人間が全員がクライアントだとしたら

先日若いクリエイターさんから「どうしたら仕事が増えますか?」と相談を受けたので、私なりに答えてみました。私には私の事例しかないので正解かどうかは分かりませんが、このやり方で20年続いているので、あながち大ハズレではない気がします。その内容の一部をまとめてみました。

 

24時間の寝てる時以外は、基本的に「物作り」のことを考えています。

私の場合、だいたい毎日5〜10社くらいの仕事を大小混ぜながらしています。長い仕事は年単位でしていて、短い仕事であれば一週間くらいで終わります。職種業種・ターゲットが全く違う案件を同時にこなすので、自分自身は常にマーケティング用語の「生活者」でいるようにしています。

生活者の説明は学者さんや書籍、マーケティングのジャンルによって微妙にかわるので、こうですと断言するのが少し難しいのですが、ざっくりいうと「消費するだけではなく、消費によって暮らしを良くしていこうとする人」みたいな感じでしょうか。ちゃんと考えて買ってる消費者と私は思っています。辞書だと以下のように書いていました。

 

せいかつしゃ【生活者】
人は単に消費するだけではなく、消費活動を通じて生活の豊かさや自己実現を追求しているという考えに基づき「消費者」に代わり用いられる語。(引用:大辞林 第三版)

 

色々な企業に外部のスタッフとして参加していると、その企業のみんなが気付いていない素晴らしい点と、社内ルールが固まりすぎて生活者の感覚と離れてしまった小さなガラパゴス点が見えてきます。外部の人間としての役割として、サンプルAという生活者の感覚的な意見を議題のテーブルに乗せてくるというのが仕事になります。あとは社員の方が言いにくいことを察して、代弁して言うのも仕事でしょうか。多少嫌われることもありますが、察して発した言葉を、更に察して下さる方は必ずいるので嘘さえつかなければ大丈夫です。

 

街の中を歩くとき、呑み会で呑んでいるとき、常に自分はなるべくフラットな生活者でいようと努力しています。金銭感覚も含めですが。その生活者意識ともう一つ常に持ち続けていること。それが「もし自分以外の人間が全員がクライアントだとしたら」という視点です。

どんな場所にいても、自分以外の人がもしみんなクライアントだったらどう接するだろう?と考えます。物作りの人として見られているという意識を酔っていても忘れないようにしています。そうすることで、どんな相手でも、相手が得するアイディアをたくさん考えられるようになりますし、どう人と接すると気持ちよい人でいられるかなと気づけるようになります。

クライアントだから、友だちだからと、相手によって使い分ける事なく「私以外の人間は全員クライアントだと思っていよう」そういう心を持つだけで、他人と接するときに相手優先で考えられるようになります。

クライアントの前で悪口を言う人はいないし、クライアントの前でいきなり怒り出す人は少ないはず。相手を立てるのが仕事だと分かっているとそう行動できる人は多いのに、「クライアントじゃない!」と心のスイッチを切った瞬間に、突然、遠慮なしの感情の塊になる人をたまにみます。その姿を外側からみていて、一緒に仕事したいなと思う人は少ないはずです。一緒に仕事したくない人に見えてしまうと言うのはクリエイターとして座布団2枚没収状態じゃないかなと思います。

 

生きている自分のポジションを少し下げる努力。片膝をついて人の話を聞く努力。これが物作りで実は一番勉強できるスタンスなんだと感じています。上に行くのはカンタンなんですが、理解して少し下げ、弱い立場や困っている人の話をよく聞く。そしてもっとも心地よいと感じる人の数が多い解決方法を考える。私の物作りは常に下から積み上げていくようにしています。

この「良く聞く」と「解決方法を考える」が実はクリエイターの仕事の本質で「企業みなさまの声を聞くこと」と「生活者の声を聞くこと」により、全方位で声を集める作業が可能になります。両方の声を組み合わせて、多くの人の心地よい着地点を見定められるようになります。オシャレなモノ・かっこいいモノは結果であって、目的ではないのがクリエイティブという仕事です。

 

売れっ子の各種クリエイターさんと会って話すと、本当にみんなフラットに良く人の話を聞きます。どんな人の意見でも。そしてみんなわかって自分から片膝をついています。そして余計なコトはいいません。ビックマウスもしません。これを謙虚な姿勢といいましょうか。私は売れっ子ではないので、そういう方とお会いできると本当に勉強になるし、尊敬でいっぱいになります。謙虚で優しい人が私にとって美しい人です。

 

食うに困らないクリエイターでいたい場合、たくさん営業活動するより、日々の姿勢の方が大事に思います。作品も大事ですが「生き方・考え方」も実はよく見られているポートフォリオなんだよなぁと日々感じます。実際にディレクターの仕事でチーム編成を頼まれ、企業へ人選を伝えるとき、上手い人より良い人を優先するので、これは本当です。ちなみにデザインもイラストも数をこなせば自然に上手くなるので不安なときは練習が一番の薬になります。私もまだまだ下手くそなので日々精進。

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Illustrator / Art Director 兎村彩野。1980年東京生まれ、北海道育ち。高校在学中にプロのイラストレーターとして活動を開始する。17歳でフリーランスになる。子ども向けの絵(NHKおかあさんといっしょの「黒ネコダンス」や「ながぐっちゃん」など)や女性向けの絵、アウトドアの絵を得意する。ドイツの万年質LAMY1本で描く「LAMY Sketch」が人気になる。
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