兎村彩野|Illustrator / Art Director

エンドロールを追いかけて、君の名は。

新海誠監督の映画に出会ったのは2002年の大阪ショートショートフィルムフェスティバルでした。まだ今ほどショートショートフェスティバルが有名になるずっと前で、たぶん第二回くらいだったと思います。

たまたま大阪で観に行った上映プログラムに新海誠監督の「ほしのこえ」が入っていました。今まで観たことがなかった画面の構図、色彩、ストーリー、カット割り、電柱のシルエット、間、すべてが自分の中にすっと入ってきて、ただのアニメとは感じられず、これをなんと表現したら良いのだろうと思いました。

「映像で出来たアクアリウム」のように感じたというと一番自分の感覚に近いです。観ている25分ほど自分の身体の重力が少し軽くなったような錯覚をしました。水の中で映画をみているとこんな感じかなぁという。

そしてその不思議な気持ちよさとアニメの美しさが終わりエンドロールが流れたときに衝撃を受けます。エンドロールのほとんどの項目に「新海誠」と書かれています。あのエンドロールに何回「新海誠」という名前が出てきたでしょうか。え?え?え?ひ、ひとりで作ったの???パニックです。

自宅に帰ってすぐに検索して、新海誠監督のサイトを探しました。ご本人の個人サイトがヒットして、記事を読みあさり、音楽と声優以外は本当にほぼ一人で作っていました。

 

新海監督のエンドロールは大きな勇気を与えてくれました。

そしてその時、小さな目標として、少人数のアニメを私も作ってみたいと思うようになりました。私に出来そうなのは動く絵本みたいのがいいなぁと。

 

それから数年後。NHKのおかあさんといっしょからアニメ制作のオファーが来て、本当にアニメ制作デビューしました。

私はイラスト担当としてキャラを作ったり絵を描いたりですが、2分ほどのアニメの絵はほぼ一人で描いています。タイトルなども自分で作っています。アニメーションを付ける作業は出来ないので、アニメーターさんと協力して制作しました。まさにやりたかった少人数制作の動く絵本みたいなアニメ制作でした。

心から楽しんで作った作品で、魂が入ってるのか「黒ネコダンス」や「ながぐっちゃん!」は十年以上放送される唄アニメになりました。現行でNHKの国際放送でも忍者先生が日本のマナーや面白い話を紹介する「teach me ninja sensei!」というショートアニメも連載中です。他にも企業アニメやパナソニックの洗濯機のWEB用アニメなど、オファーがあれば少人数制作のアニメの仕事は受けるようにしています。

 

あの日、新海監督の「ほしのこえ」に出会っていなかったら、私は「動く絵本」というアニメ制作に進んでいなかったので、本当に人生の中の大切な人です。お会いしたこともなければ、友だちでもないですが、私の中でとても大切な「未来」みたいな監督です。

 

「君の名は。」観に行きました。

2002年のあの日、大阪の小さな映画館でぽつぽつしか人がいない中、震えるほど感動した私が、2016年の今、こうして満員にちかい劇場にいて、みんなと感動していているという景色全部に感動して、終始泣きっぱなしという。

 

そして最後。「君の名は。」のエンドロール。「新海誠」という文字がとても減りました。そのかわり沢山のスタッフ名が、黒い画面を白い文字で埋め尽くしています。

エンドロールを追いかけて、気付けば14年も経っていました。どの作品も好きで、今回の新作もやっぱり素晴らしく、スタッフは増えても作品の背骨はぶれずに「新海誠」であり「あぁ、アニメを作り続けて下さり、ありがとうございます。」しか言葉がでてこないです。この星に、同じ時期に、新海誠という人がいて本当によかった。うれしい。

by
Illustrator / Art Director 兎村彩野。1980年東京生まれ、北海道育ち。高校在学中にプロのイラストレーターとして活動を開始する。17歳でフリーランスになる。子ども向けの絵(NHKおかあさんといっしょの「黒ネコダンス」や「ながぐっちゃん」など)や女性向けの絵、アウトドアの絵を得意する。ドイツの万年質LAMY1本で描く「LAMY Sketch」が人気になる。
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