兎村彩野|Illustrator / Art Director

正解のない問題と割り切れない感情「さらば、佳き日」

よく本屋さんへ行きます。本も漫画も半分は調べた物を探しに行きますが、半分は直感買いです。直感で本を選ぶのはとても大事な作業です。なんでも検索やクチコミを基準にして買うようになると、身体の感性が音痴になるような感じがして苦手で、本屋は直感を鍛えるトレーニングにちょうどいいです。

 

そんな直感買いのなかで、表紙を手にしただけで軽く電気が流れたような錯覚をするほど「コレはヤバイ。感性が引っ張られる!」と感じた漫画が「さらば、佳き日」でした。

まず表紙が新海誠監督のアニメの風景画に通ずるような美しさがあり、その美しい表紙に付いていた帯のコピーが「僕の妻は妹でした」とだけ書いてあります。たったこれだけしか情報がないんですが、もう読まなきゃだめだ!と感じ、ワクワクが止まらず、帰りにミスドで読み切ってしまいました。

 

不思議と雑誌連載のポップなどで見かけたことがなかったので、調べてみたらWEBで連載されているようです。最近WEBからの単行本が増えたなぁと思います。新しい世界から出てくる新しい漫画は、可能性が広がって嬉しい限りです。

帯でネタバレしていますので、書いてしまいますが、メインの登場人物は実の兄妹です。それがただの禁断物語ではなく、やわらかく、色の薄い水彩画のような、みずみずしい感性という画材で人の中にある心を描写します。設定だけみると「え〜」っと思われがちかなと思うのですが、設定よりも、2人の透明感あるオトナの繊細な心が少しずつ前に進んでいく感覚がとても気持ち良く、ドーナツ片手に何度もうるうるしてしまいました。読んでいる最中ずっと漫画の中に優しい風を感じます。

 

純文学の小説がもし漫画だったら。そのくらいの透明感と優しさと真面目さです。そこが素晴らしく美しく。なにか他の世の中にある漫画とは全然違うステージに魂が存在する漫画で、名作でした。

ゆっくり連載しているようで、なかなかすぐに新刊は出ませんが、それでもゆっくり待ち続けたい漫画です。待っている時間に何度も何度も読みたくなります。

 

ちなみにこの漫画はお風呂の中で読むのが好きです。柑橘のバスソルトでいい匂いのする小さなバスタブの中で、小さく体育座りしながら読んでいると、ピアノソロみたいな細く濁らない音がぐんぐん心に入ってくるような感じがします。


sarabamangaさらば、佳き日
茜田千

by
Illustrator / Art Director 兎村彩野。1980年東京生まれ、北海道育ち。高校在学中にプロのイラストレーターとして活動を開始する。17歳でフリーランスになる。子ども向けの絵(NHKおかあさんといっしょの「黒ネコダンス」や「ながぐっちゃん」など)や女性向けの絵、アウトドアの絵を得意する。ドイツの万年質LAMY1本で描く「LAMY Sketch」が人気になる。
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