兎村彩野|Illustrator / Art Director

毎日生きているだけでたくさん変わっている。

若い頃はなかなか自分が変われないことに焦ったり悩んだりしていました。どうしてうまく仕事ができないんだろう。どうしてダメな恋愛しちゃうんだろう。どうして余計なコト言っちゃうんだろう。どうして。どうして。どうして変われないんだろう。

年を重ねながら、変る事の意味を自分なりに探していく中、生態系や生物の勉強の中から、ふっと気付いたことがありました。

 

どんな命も、細胞は日々ものすごい早さで入れ替わっていて、昨日の自分と今日の自分はとても似ているけど、まったく同じとは言えず、どこかは必ず新しい細胞がいる。

髪の毛や爪なんかは見た目が分かりやすいのですが、伸びては切って捨てていく。捨てた方はさっきまで自分で、今は自分ではない。ということは、今、ほんの少し変わっていて、さっきの自分ではないんだと感じます。

昨日考えていた事や人と話したことを、思い出しながら一言一句間違えずに言おうとすると、不思議と雰囲気は分かっているのですが、なんだかニュアンスが違ったり、忘れてしまったり、表現が変わってしまったり。たった一日の違いなのに、もっと短く数時間かもしれないのに、同じ自分がどこにもいないことに気付きます。かなり近い自分だとは思うのですが、同じだと感じません。

 

人は案外、生きているだけでものすごい量、それは2万とか3万とか、それ以上のちょっと気が遠くなるほどの小さく細かい部分が日々変わっている。なので、変わっていない部分の方が実は珍しい部分で、珍しいから目立つ。目立つから余計に気になる。数万の変わったの隣に、指で数えられるくらいの変わらないがある。

それが「変われない」という焦りの正体ではなかろうかと思うようになりました。

 

生きているだけで本当はすごく変わっている。変われないことを焦るのは視野が狭くなっているだけだからやめよう。それが私のある日の答えでした。とても楽になりました。

 

そして、その時に、もう一つ副産物として。変われないと苦しい日があったら髪の毛や爪をみてみようと思うようになりました。この髪の毛や爪は結構新しい。髪の毛や爪は私がごはんを食べたり寝たり悩んだり笑ったりしながら生きていることで、私自身が私自身のために日々伸ばしている。それは努力だって同じで、自分のために多分ちゃんとどこかが伸びている。

目に見えなかった「変わる」の不安は、自分自身の身体を見て安心する。という面白い不安解消方を見つけました。不安が減ったので努力しやすくなりました。努力しやすくなったので前より楽しく自分の苦手や不器用と向き合い、どう生きたいかを考えられるようになりました。

 

笑われそうですが、爪や髪を無意識に伸ばせるくらいすごいことが出来るんだから、考えや行動だって変わろうとしていればそのうち変わっていくだろうと楽観的に思えるようになり、自分の中にある「変われる」という力を信じられるようになりました。

 

不安がない人はほとんどいない。だいたいみんな多かれ少なかれ同じく不安を持っている。そう思えば、自分だけ不安だと焦らなくていいし、他人の不安を想像して痛みを感じたりできます。誰でも持つ不安とどう折り合い付けて上手く付き合っていくか。そういうときに自分なりの不安解消法があればいいのかなと思います。

それが、私には自身の身体を眺めて「あぁ。私って、結構、新しい。」と思うことでした。生きてるだけでちゃんと変わってる。大丈夫。自分の命を褒めるというのはなかなか良いことだなぁと思います。

 

当たり前のことですが、変わりたいと強く望むとき、まず自分自身の身体を大事にする。そう思えば案外、変わるってそんなに難しくないのかもなと。命を褒めるために自分の身体を大事にする。

by
Illustrator / Art Director 兎村彩野。1980年東京生まれ、北海道育ち。高校在学中にプロのイラストレーターとして活動を開始する。17歳でフリーランスになる。子ども向けの絵(NHKおかあさんといっしょの「黒ネコダンス」や「ながぐっちゃん」など)や女性向けの絵、アウトドアの絵を得意する。ドイツの万年質LAMY1本で描く「LAMY Sketch」が人気になる。
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