兎村彩野|Illustrator / Art Director

お金の仕組みを学ぶこと、自分の力で生きること。

この20年ほど、自分で選んだ仕事でご飯を食べてこれました。きっと骨も髪も肉も、仕事のギャラでできていると思います。そんなこの肉体が好きです。

私の場合、社会に出たのが早く、17歳の高校在学中に父の仕事の手伝いで、絵を描くようになったのが始まりです。この職種で食べていこうと決めたのはこれがきっかけでした。「自分の力で食べていければいい。」これが目標でした。そして出来れば自分の人生は自分で選べる環境を作りたいとも思っていました。

 

自由に人生が選べつつ食べていくためにはどうしたらいいか、考えたことがあります。まず職種は好きな絵やデザインの物作りを選びました。就職して一通り世の中を知って人の繋がりなどを作ってから独立するか、フリーランスで自分で全部を経験してみて成長していくか。私は後者を選びました。

会社に入るメリットとしては細かい経理や契約書は別の方がしてくださるのでやらなくていいという楽さがあったり、デザインの先輩がいるので分からないコトはすぐに習えたり、毎月決まったお給料が振り込まれると言う安心感があるということでしょうか。逆にデメリットは、そういう経理や契約の知識が苦手になりそうかなと、税金の仕組みが自動で引き落とされるので分からなくなりそうだなぁでした。

フリーランスのメリットは、全ての制作と打ち合わせとお金の管理を一人でするので全てのことの経験値がつくところや、制作物の半径200mくらいまわりにあるモノまで考える事ができることでしょうか。デメリットは先輩がいないので全部自分で責任を持たなければならないことと、精神も肉体も健康でいないといけないことかもしれません。精神も肉体も健康、これは結構大変です。

今、20年働いてみて。前者も後者もどちらを選んでも、「好きだな」「楽しいな」の要素があれば、幸せにさほど違いはなさそうだなが結論です。どっちも仕事。そんな感じです。(前者は経験がないのですが、前者の人たちと仕事をしているので、話は聞けるし見えてくるしという感じです。)

 

私は運がよく、祖父が税理士だったので、中学生くらいで税金の仕組みや収入の仕組みというお金の話を聞くことができました。

会社に入るとなぜお給料から税金がひかれ手取りとお給料がズレるのか。税金とはそもそもなんなのか。税率という仕組みがあるのはなぜか。会社に勤めることのメリット・デメリット。フリーランスという生き方に必要なこと。確定申告があること。

その時は面白くて聞いているくらいでしたが、早くに生きていくためのお金の仕組みに触れることができたので、選択肢がたくさん用意できたのは本当に有り難かったなぁと思いました。母がフリーランスだったので、事務的なことはすぐに相談できたという背景もあります。さらに高校生の頃、父の会社の独立を手伝ったので、それも食べていくことを考えるとてもよいきっかけになりました。

 

高校生で税金や社会の仕組み、扶養家族の意味や、年間いくらまでなら収入を得ても良いかを理解できていたというのは珍しいと思います。そして困ったらどういうところに問い合わせればいいかも親や祖父が教えてくれていたので、あまり生きていくのに不安がなかったというのも、とても感謝しています。悪いことを想像できる力と、そういうときに、どうやったら助けてもらえるか。これもその言葉が安心に繋がりました。

「お役所は慣れないかもしれないけど、ちゃんと聞けば優しく教えてくれるから、礼儀正しく聞いてごらん。」これは自分の力で生きていくのにとてもためになるよい言葉でした。今でもこの言葉に何度も救われています。

このすべての偶然の環境のおかげで、高校生の将来を選ぶ時期に「フリーランスでいいし、自分が食べていけるだけの好きな物作りの仕事をしていきたい。」と言えました。たまに経歴書を書くと「よくこんなに早くにフリーランス選んだね。」と言われますが、ちょっと特殊な背景があり、身近に親というお手本がいて、運がよかったという感じはあります。

 

社会に出てお金を話をするとイヤらしいみたいな雰囲気を空気で感じますが、生きていくのにお金は必要だし、税金の仕組みが分かれば高いとか安いとかの主観的なストレスもなくなるし、独立して働くことも、組織に所属して働くことも、自分の適性に合わせて選ぶことが出来るのになぁとたまに思うことがあります。とくに中学生や高校生の頃に、私のように、お金のリアルな話に触れたり制度やルールを学べる機会があれば働くことを選ぶのが楽しくなるのになぁとも今では思います。

 

お金の勉強とは、たくさん稼ぐ方法を学ぶことではなく(これはたぶんお金ではなく経営の話や財テクの話なんだと思う)、世界にどういうお金のルールがあるのかを学ぶことなのかなと思います。その学びから自分がどの働き方を選べば楽しく生きていけるのか考えることができるようになるのかなと思っています。その考える力が「自分の力で生きていくこと」に繋がっていくのかなと。

 

もっと稼ぎたいとか、もっと売れっ子になりたいとか、もっと良い暮らししたいとか、大きな贅沢の仕方はちょっと私には分かりませんが、身の丈で楽しく、毎日そこそこに食べていけるくらいの自由がある暮らしなら意外と色々な働き方で作れるなぁと感じます。もしかすると多様性とは、そういう「そこそこの暮らしが色々な働き方で成立する社会」なのかな。そうなっていくといいなぁ。

by
Illustrator / Art Director 兎村彩野。1980年東京生まれ、北海道育ち。高校在学中にプロのイラストレーターとして活動を開始する。17歳でフリーランスになる。子ども向けの絵(NHKおかあさんといっしょの「黒ネコダンス」や「ながぐっちゃん」など)や女性向けの絵、アウトドアの絵を得意する。ドイツの万年質LAMY1本で描く「LAMY Sketch」が人気になる。
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