兎村彩野|Illustrator / Art Director

秋刀魚のと生姜の土鍋炊き込みご飯

夫と出会った頃、ちょうど私が仕事の忙しい時期で、夫はすこしゆっくりしている時期でした。くわしくは「夫に洗ってもらったパンツしか履かない」のコラムに書きました。よろしければこちらのコラムも是非。

 

忙しすぎてご飯を作る時間が取れず、どうしたらよいものかと困り果てていたある土曜日。まだ彼氏だった現夫に「お腹空いてるなぁ」と弱音メールをした日でした。

まだ一緒には住んでいなかったので、ウチに遊びに来るか外でデートするかの、ごく普通の恋人だったころです。

 

家で一人仕事をしていると、夕方過ぎにピンポーンと夫が遊びに来ました。なにかいい匂いがします。

「お弁当つくってきた。」おもむろに小さな厨房台にポンと紙袋をおき、ごそごそ取り出したのは大きなタッパーでした。

え??た、た、たっぱー??

受け取ったタッパーの蓋をあけるとキレイにきっちり敷き詰められた中身は、秋刀魚のと生姜の土鍋炊き込みご飯でした。家で作った時の土鍋の写真を携帯で撮ってきてくれ「クックパッドみて作ってみた」とニコニコして見せてくれました。

まず土鍋をちゃんと持っていることに驚き、土鍋でご飯炊ける事に驚き、クックパッドでレシピを見ながら料理出来ることに驚き、大判のタッパーを持っていることに驚き、お弁当が嬉しいこと以上に、なんて生活力のある男の人なんだろうと心の底から驚きました。

 

持ってきてくれたお弁当の写真が残っていました。

持ってきてくれたお弁当の写真が残っていました。

 

ささっと味噌汁を作ってくれて「土鍋は冬にお鍋するから持ってるよ」とか、秋刀魚の炊き込みご飯を二人でたべながら話をしました。

一人暮らしでちゃんと土鍋使いこなして生きてきたという姿が、とてもセクシーに見えました。私にとって自立力こそがセクシーなんだと、はっと気付きました。なんと艶っぽい男子なのだろうと。あぁこの人の嫁になるって幸せなことなんだと悟りました。

 

一緒に住んでからも、秋になるとたまに作ってもらいます。普段は二人で一緒に晩ご飯を作りますが、この「秋刀魚のと生姜の土鍋炊き込みご飯」だけは夫に全部つくってもらっています。

この土鍋の味が私の人生の分岐点です。夫と生きることが幸せの始まりだと思い出せる特別なメニューです。出汁やみりん醤油や酒でしっかり炊きあげたご飯に、秋刀魚と厚揚げの脂のコクがからまって、たっぷりのいい香りの生姜が食欲を元気にするのか、もりもり食べれます。梅干しのペーストをちょこんと乗せて食べるとさらに絶品。秋刀魚と梅干しの組み合わせは私の母もよくしていたので実家の味でもあります。

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ちょうど釧路から今年も美味しい秋刀魚が届いたので、ひさしぶりにリクエストして作ってもらいました。やっぱり美味しいです。今日も私は幸せです。

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Illustrator / Art Director 兎村彩野。1980年東京生まれ、北海道育ち。高校在学中にプロのイラストレーターとして活動を開始する。17歳でフリーランスになる。子ども向けの絵(NHKおかあさんといっしょの「黒ネコダンス」や「ながぐっちゃん」など)や女性向けの絵、アウトドアの絵を得意する。ドイツの万年質LAMY1本で描く「LAMY Sketch」が人気になる。
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