兎村彩野|Illustrator / Art Director

「夫婦とは一緒に仲良くたまに旅行に出かけたりするもの」というイメージ

夫の両親は旅行へ行くといつもお土産を買ってきてくれます。小さなダンボールにいっぱいお土産が入って届きます。ワタシにとって結婚してからこの小さな贈り物がとてつもない幸福感だったりします。

 

私の両親は、ワタシのような職種なので小さい頃から労働時間は長かったと思います。好きな事を仕事にしているので、仕事の愚痴のようなモノは少なく、どちらかと言えば「最近こんなの作ったんだよ。学校帰りのあの道に新しいのあるから見てきてごらん。」みたいに街の中に父の仕事で作ったモノがアチラコチラあったので、そういうデザインやアートの話がほとんどで、大人の世界の図工(物作り)とはなんと楽しそうなのだろうと憧れでした。

なので私の中では「たくさん働く=好きな事をたくさんしている」という図式です。今、ワタシが仕事好きであり、誰かのために働くことが楽しいと思えるのは、父と母の背中を見れたからなのでかなり感謝しています。実家では働くということはポジティブな事でした。

 

そんな両親なので休みが少なく、お互いのしたいことを認めているので各々に自由にしていて上手く行く夫婦なので、冠婚葬祭以外で夫婦で一緒にどこかへ出かけたのを見たことがありません。

仲が悪いというわけではないのですが、父は仕事が好きで、母は本を読んだり文化的な活動が好きなので、好きが重なるポイントが少ないという感じです。両親ともに好きな事をしているので、自由な感じはワタシにも遺伝している気がします。

 

学校の家庭科の教科書やサザエさんやドラえもんのアニメを見ていると「夫婦とは一緒に仲良くたまに旅行に出かけたりするもの」のような描き方が多いので、小さい頃ウチはそうじゃないなぁと思って少し困惑していました。それで母に質問したことがあります。

 

「家で主婦して欲しいっていうイメージの女性像を求められたら結婚しなかったよ。お父さんはお母さんに人として自由にしていていいよって言ってくれる人だからベタベタ仲良くする夫婦じゃないけど、お父さんとお母さんのバランスではとても良い感じに夫婦なんだよね。分かりにくいと思うけど。

私たちの世代(両親の世代)でお父さんみたいに性別で【女性だから!】と言わない人は少ないから、ウチは珍しい感じだけど、あやちゃんが大人になるころはもっと性別はなくなると思うからこれでいいんだよ。」

 

面白い家で、兄弟を「姉」や「弟」でなく「名前」で呼ばせあったり、「女子だからピンク・男子だから青」ではなく好きな色を選んで良いよと、すごくジェンダーフリーな環境だったのだと思います。そういえば父も仕事で女性や男性と分けることがなく、良い仕事出来ればOKみたいな考え方でした。もし女性や男性を分けるとしたら、単純に女性は背が低いから高いところのモノを男性が取るとか、重い物は力のある男性の方が持つとか、身体的な能力の持っている差の時だけだったと思います。

 

「まず人間である。その後に特性としての性別がある。」ワタシの人を見る目の感覚がこんな感じになったのは、間違いなく実家の環境だったなぁと思います。

 

と、こういう感覚で育ったので、今はすごく生きやすいのですが、子どもの頃はどうも学校の「男子・女子」になじめず、違和感を誤魔化さないといけなかったので苦労していました。そして、漫画やアニメで描かれる「夫婦とは一緒に仲良くたまに旅行に出かけたりするもの」という感覚がどうしても掴めないでいました。

 

結婚をして、夫の実家と家族になった時、夫の両親が仲良しでいつも一緒にご飯を食べていて、旅行に出かけたりしていて、はじめて自分が掴めなかった絵を見せてもらうことができました。しかもその景色の中に自分もいる。自分がずっと分からなかった風景の中に自分がいて受け入れてもらっていることで、小さかった頃からずっと分からなくて置き去りにしてきてしまった頭右上にある「?」がきれいさっぱり消えて「コレだったんだ!」と知りました。そして単純に「なんかいいなぁ!」と思いました。

 

思えば人生とは特別な事情をのぞき、半分は生まれた実家しか家族を見ないで育つので、それが外から入ってくる情報と違う場合「そのようなものがあるらしい」としか思えないなぁと感じます。

 

全く違う2つの実家ができてから、生きているのがとてもラクになりました。ワタシの自由な感覚やジェンダーを気にしなくていい考え方は生まれた実家のおかげであり、普通でいることや家族の繋がりを大切にする幸せを教えてくれたのは夫の実家のおかげです。

 

たくさんの価値観を家族から知る、お互いに受け入れ合っていく。どちらが良いとか悪いではなく、私の人生にはどちらも必要で、夫の実家から小さなお土産便が届く度に「あぁワタシは、今、家族が3つあるんだ」と不思議な安心感に包まれます。その安心感が幸せの意味だったりもします。

 

「生まれた時に決まった家族」「結婚で新しく繋がる家族」「自分の意志が選んで作った家族」たった1つ家族の中で育ち、成長すると3つの家族を持つ。

 

結婚とは、全く違う価値観を作り続け生きてきた人々が出会い、お互いに違うという価値観を受け入れ尊重し合うことで、人として豊かな多様性のある価値観へ広がっていくことであり、さらにそこから学びながら時代に合わせて自分たちで「家族という新しい価値観」を作り出していく作業。結婚には人生の新しい成長があるので、とても面白く楽しい「人生の選択肢」のひとつだなと思います。

by
Illustrator / Art Director 兎村彩野。1980年東京生まれ、北海道育ち。高校在学中にプロのイラストレーターとして活動を開始する。17歳でフリーランスになる。子ども向けの絵(NHKおかあさんといっしょの「黒ネコダンス」や「ながぐっちゃん」など)や女性向けの絵、アウトドアの絵を得意する。ドイツの万年質LAMY1本で描く「LAMY Sketch」が人気になる。
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