兎村彩野|Illustrator / Art Director

世界の空席を見つけるチカラ

早くからフリーランスを選んだ私は、どうしたら食べていけるか、無理な営業をしないでも仕事がもらえるかを考えていました。その中で見つけたのが「世の中の空席を見つける」でした。この感覚は仕事以外の友人関係や恋愛でも応用が利くと後々分かりました。感覚のお話なのですが書いてみようと思います。

 

世界には沢山の椅子が用意されています。立派なソファみたいな椅子、ちょっとネジが取れた傾いた椅子、派手な色の椅子、シンプルな椅子、肌触りの良い椅子。同じ椅子は1つもなく、どこか少しみんな違っています。

その椅子を使って世界中の人が椅子取りゲームをしています。

自分の望む素晴らしい椅子に座った人はとても幸せです。これは夢が叶った状態です。望まないけど座ってみたら意外とよかった椅子に座った人は相性の良い状態です。これも幸せなことです。望んだ椅子に座ってみたけどどうも座り心地がよくなく、なんだかしっくりしていないとき、立ち去るか、もう少し椅子を調整するか、自分が椅子に座れるだけの筋肉を付けるか、この状態が悩んでいる状態です。座っていた椅子から立ち上がり去るとき、現状からの旅立ちです。

誰かが座った椅子が空き、また誰かが座る。空席待ちをしてもいいし、とりあえず空いてる椅子に座ってもいい。人気のない椅子はずっと空席で、少し椅子に問題があるかもしれないけれど、椅子修理する技術があればどんな椅子にも座れるオールラウンダーにもなれる。

立って歩き続けてなかなか椅子が見つからないとき、人は不安になる。体力も奪われていく。

 

私は世界を考えるとき、椅子と人間の関係でイメージにしています。

 

自分で持っていない能力が必要な椅子は選びにくいので先に手放しました。手放せば他の誰かの椅子になるので問題ないです。世の中のためにはなります。

困った椅子、使いにくい椅子、小さくてみんなが見落とした椅子、修理が大変な椅子。私は経験値が欲しかったのと、コネや学歴がなくても、人気がない椅子は座りやすいと知ったので、そこを狙って座るようになりました。不思議なモノで人気のない椅子は空席でずっとそこにあることが多いので空席だけ見つけて自由に選べる状態は意外に楽しく「ここも空いてる!」「ここも空いてる!」と自分の意志で自由に動き回って椅子を選べるので、その状態が「これが自由の意味だったんだ」と学びました。

 

人気のない椅子は座りたい人が少ないです。問題がある椅子の近くには必ず困っている人がいます。そういう困っている人と工夫して椅子を直したり、座れるように調整する人になると、なんとかいつも椅子に座りながら、色々な椅子を学べました。「困ったを解決してくれる人」というクチコミが私には増えていきました。

 

運良く、私のこの「空席を探すチカラ」は仕事に大変役に立ち、どんな椅子でも怖がらずに座れるようになりました。本当にヤバそうな椅子は最初から逃げるという直感もつきました。他人は椅子を工夫して座ったり、がんばって修理する近くの人の姿をよく見ています。黙々と工夫して直して座っていると「こっちの椅子を直すの手伝ってもらえますか?」と声をかけてもらえるようになりました。

相性が悪い椅子に無理して座ると本当に疲れてしまうので、そういうときはさっと手放す勇気も必要です。自分にとって合わない椅子も、他の誰かには合う椅子なので、無理をしてしがみついてしまうのは少し危険。

 

立派で光り輝く美しい椅子は確かに存在します。それはふかふかで座れば気持ちよいし、お昼寝しても寝心地がよいでしょう。ただ、そういう椅子は数が少なく、狙ってくる人は沢山います。もしかしたら奪い合う事になるかもしれません。たとえ座れたとしても、他の誰かが横取りしに来るかも知れません。気が張る椅子でもあります。

人気のない椅子は問題がありますが、椅子ではあるので、工夫すれば直るかも知れないし、状況はよくなるかも知れません。人がうらやましがる椅子より、自分が好きな椅子がどういう椅子かを考えて行く方が生きやすかったりします。この世界で一番幸せな人は、自分にぴったり合う椅子に座っている人で、椅子が立派な人ではなかったりします。

 

学校では「椅子とはこういうモノです」というある一定の基準を教えてくれますが、世界は長い歴史を積み重ねつつ、今も常に変化し続けるので、学校で習ったはずの「椅子とはこういうモノです」という椅子は案外少ないです。少しはありますが、そうでもない椅子の方があるかに多いです。

 

立派な椅子、贅沢な椅子、カッコイイ椅子、完璧な椅子という選択肢を価値観から外し、少し問題はあるけど直して工夫すれば座れる椅子を選んで座れる人になれば人生の選択肢は飛躍的に増えます。椅子を直すの楽しいな!変な椅子って面白いなと思えれば、それは個性になって新しい光を持つし、直し方が独特だとそれだけでその世界ではヒーローになれることもあります。

どんな椅子も馬鹿にせず「椅子だよ」と言える人は色々な価値観を受け入れる優しい人です。優しい人のまわりには良い人が良い椅子を持って集まっていきます。みんなで輪になってそれぞれがみんなと違う椅子に座り、楽しいおしゃべりができる。それは健全な人間関係です。自分の持っている椅子を必要以上に攻撃してくる人が近くにいたら要注意。

 

世界の空席を見つけるチカラ。これはとても楽しい能力になりますし、食べていければいいは、自由も手に入ります。今が苦しい人は椅子を変えてもいいし、傷つけられている人はとにかく椅子から立ち上がって全力で逃げてもいい。あとちょっとで直りそうなら最後まで直してみたら新しい空席がみえるかもしれない。

世界には沢山の空席がある。本当です。

 

by
Illustrator / Art Director 兎村彩野。1980年東京生まれ、北海道育ち。高校在学中にプロのイラストレーターとして活動を開始する。17歳でフリーランスになる。子ども向けの絵(NHKおかあさんといっしょの「黒ネコダンス」や「ながぐっちゃん」など)や女性向けの絵、アウトドアの絵を得意する。ドイツの万年質LAMY1本で描く「LAMY Sketch」が人気になる。
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