兎村彩野|Illustrator / Art Director

好きというエネルギーの前では、もっと素直になっていい

3歳で漫画好きになりました。

その日からずっと「読者」という最高の人生を生きています。

 

今までの人生で、どれくらいの冊数を買って読んできたのか分かりませんが、ほぼ持っている漫画は倉庫にストックしてあるので、いつか本棚だらけの家を建てて並べようと思っています。

その背表紙をみながらニヤニヤして年を取っていくのが私の幸せな未来予想図です。

 

3歳から好きだと感じると、自分の「好き」はそこが基準値になるので、漫画が好きな人なんだとなかなか気付きませんでした。世の中の人はみんな漫画が好きだと勝手に思い込んでいたようです。

大人になって友人が家に遊びに来て私の本棚を見たり、本屋で漫画をまとめ買いしてから呑み会に参加するうちに、

「あやちゃんって漫画好きだよね!」と言われるようになりました。

 

自分の中では漫画は好きなだけ買うものだし、好きなだけ読む物だと思っていたので、「え???」と驚きました。

 

 

思えば両親が漫画をとても肯定的に捉えていました。

「漫画は良いもの。総合芸術としてすごい!」と漫画をべた褒めし、読みたいと願うと本屋さんで自由に与えてくれ、リビングで親と一緒に読んでいました。

松本大洋さんの初期の頃の作品と出会ったあたりでは、母と読みながら「ヤバイ!ヤバイ!なんだこれ!!」と唸っていたので、ずいぶん自由な暮らしだったなぁと思います。ちなみに母にもらった漫画がつげ義春さんだったので、ガロ好きは遺伝です。

ふと気付くと、漫画を我慢するという経験があまりありません。漫画はずっと暮らしの真ん中にありました。

 

お金がない若い頃でも、ないなりに工夫をして、ブックオフや中古本屋を巡回し、店先の100円ワゴンで見たことのない面白そうな漫画を集めていました。蛭子能収さんや、古くなった手塚治虫さんの漫画も、100円ワゴンで出会った漫画たちです。春先の引っ越しシーズンを狙って100円ワゴンへ通い(中古漫画が大量に増える時期なので)、良い漫画に出会うと嬉しくてむさぼるように読んでいました。漫画集めの時間も、読む時間と同じくらい好きでした。

 

直感と観察力が良くなったのは、限られたお小遣いでどれくらい上手に好きな漫画を集められるかという、店先での漫画選定真剣勝負のたまものではないかと思います。

表紙のデザイン、色、使われているフォント、裏のちょっとした紹介文、表紙の紙質。手にとって数秒で「これはいけそう」「これは私と合わなそう」を判断する訓練が、かなり観察力を育ててくれたと思います。今でも仕事の打ち合わせの帰り道は数件の本屋を回って、漫画直感大会をしています。いいと思ったら身銭で全部買う。買ってきた漫画を全部読んで、直感のズレの反省会をする。この繰り返しをずっとしています。最高の自主訓練です。

 

こんな生活をしていて、各所呑み会で酔っ払いながら漫画愛を話していたら、ご縁あって、講談社という出版社から「オフィシャルで漫画のブックレビューをしませんか?」とお誘いを受けました。毎月数冊、講談社から発売になる漫画のレビューを書いています。

 

兎村彩野 講談社オフィシャルブックレビュー一覧
http://news.kodansha.co.jp/kc_tag_search?tagData=ライター名&tags=兎村彩野

 

漫画の一番面白い部分は読者のモノと思っているので、ネタバレやあらすじ紹介は最小限にとどめ、コラムとレビューの中間のようなちょっと変わった文章を書いています。1本書くのに、紙の漫画と電子書籍(Kindle)の両方で読み、それぞれのリズムの違いを確認します。4日くらいかけて毎日数回読みます。

 

  • 自分が読者として面白かったポイント
  • 著者が描いていてここが楽しかったんじゃないかなぁと受け取れたポイント
  • この漫画を世に出した担当者さんの眼差しポイント

 

この3点が見つかるまでひたすら読み込みます。

 

一度レビューした漫画は、完結するまで続巻も追いかけるようにしています。その世界に触れさせてもらえた感謝は、読者でいることで恩返し出来ると信じています。

私は死ぬまで良い読者でいたい。良い読者でいるためにオタクにならいようにバランスをとり続ける。常になにものでもない「ただの読者」でいるのは本当に楽しい。これは私の命の目標でもあります。

 

客観的に書き出すと、これは「仕事」と「仕事じゃない」のどちらに属するのだろうと分からなくなりますが、そんなものは愛の前ではとてもチープな判断で、境界線は消滅しています。

 

身体の内側からわき上がってくる好きというエネルギーはすべての境界線を越える。ごちゃごちゃうるさいよと笑ってしまうくらい、全部がどうでも良くなります。好きというエネルギーは溢れていい。好きだと思うものへは損得感情も湧かないし、純粋でいて良い。これはもはや人生全部にいえるなと思っていて、家族も仕事も恋愛も趣味も、なんでも。好きというエネルギーの前では、人はもっと素直になっていい。と、私は思っています。

 

溢れて愛が余ってどうしようもなくなったので、漫画愛を少しでも世界に還していけるように。今日も漫画を読み、レビューを書いています。なにものでもないただの読者として。

by
Illustrator / Art Director 兎村彩野。1980年東京生まれ、北海道育ち。高校在学中にプロのイラストレーターとして活動を開始する。17歳でフリーランスになる。子ども向けの絵(NHKおかあさんといっしょの「黒ネコダンス」や「ながぐっちゃん」など)や女性向けの絵、アウトドアの絵を得意する。ドイツの万年質LAMY1本で描く「LAMY Sketch」が人気になる。
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