23歳の時、日本の民芸という文化に出会いました。そこから13年、ゆるやかに時間をかけて気に入った暮らしの道具や器を集めています。
ちょうど民芸を集め始めた23歳の時、ある百貨店の催事場で日本民芸フェアがありました。色々見れそうだなぁと足を運び、そこでひとつの汁椀に出会います。
朱色の美しい漆、飲み口が少し反るので口が小さな私にも食べやすそう。手に持つとほどよい軽さ。
「あぁここに味噌汁とか豚汁が入ると良い重さになりそう。」
両手に包み込んだその椀は、まさに私の身体にシンデレラフィットした汁椀でした。
本漆はなかなかお値段が張るので、23歳のワタシには数万円の高級品はまだまだ手が出ずでしたが、この椀は2,000円くらいで買えるのでなんとか手が出ます。とても気に入って2つ買いました。
それから13年。この椀より気に入った椀にはなかなか出会うことがなく、ずっと愛用しています。ただ13年の時間の中で、端が少しかけてしまったり、漆が傷ついたりで、少し傷みが気になるようになってきました。
漆に細かい傷がついています
底の部分の漆にヒビが入っています
そこでネットを画像検索を駆使して、汁椀の裏にある印を頼りに、現行品で同じモノがないか数年前から探していたら、やっとついに、この椀を作っている漆の会社に再会できました。サイズを測っても写真をみても、間違いないので通販で2つ買いました。
高台裏にある山と土のマークが手がかりでした
届いてビックリします。持ってもかなり重いし、器の厚みも違います。朱色の漆はほぼ同じなのですが、印象がまったく違う汁椀が来ました。13年も経つのでリニューアルされてしまったのかなぁと不思議に思ったので漆会社に電話をしてみました。
左:新しい器 右:今まで使っていた器
左:新しい器 右:今まで使っていた器
私の愛用している汁椀は中村漆器産業株式会社という会社の長く定番で作っている「羽反型汁椀」というものでした。中村漆器産業株式会社は長野県にある400年続く漆器・木製品・和家具などを作る会社です。漆の世界では、木曽塗りというそうです。
汁椀の器部分は木で出来ているのですが、1本の木をくり抜いて椀のカタチを作り、それに漆を塗っていきます。工業製品だと椀の高台部分を別でつくり、あとから身(おや)に接着することがありますが、中村漆器産業さんのものはすべてが1本の木からくり抜くので繋がっていています。
そのため、木のどの部分を使ったかでかなり重さにバラツキがでて、一期一会の椀が生まれるのだそうです。木の下の方を使ったものは重く、上の方を使うと軽く仕上がるそうです。なので実際に手にとって自分の好みの重さの椀を探すのが良いとのこと。軽いから良いとか、重いから悪いではなく、一期一会に出会うモノでした。
私が通販で届いた汁椀の印象が違ったのは、この重さの違いでした。納得です。
会社の方とご相談したら、もし現在使っている器が手にしっくりきているのであれば修理もできますよとの事でした。
実は私の汁椀は口が一箇所欠けています。電話で伺うと、生漆に木紛と米糊を混ぜてつくる「刻苧漆(こくそうるし)」というパテのようなモノで木の欠けを直してから漆を塗るので、職人の判断によりますが多分直せると思いますよとのこと。
この欠けが直るかもとのこと
欠けの修理と漆のメンテナンスをお願いすると汁椀ひとつが3,000〜5,000円ほど。それに別途送料が必要です。そのくらいの金額で直せるそうなので、新しく買ったものはそのまま重い料理が似合う時に使い、今使っている軽いモノは修理に出すことにしました。
買えばひとつ1,800円の漆の椀なのですが、ひとつとして同じ器はなく、手に馴染む重さに個性があると知ってとても愛おしさが増しました。13年一緒に暮らしてきた私の汁椀、修理してまた10年愛でて使いたいなぁと思いました。私にとってこの汁椀は家族みたいな感じです。
修理の依頼にお手紙を付けて、可能であれば自分の汁椀の修理するところを見学できるかきいてみようと思います。
新品の漆ってこんなにきれい
中村漆器産業株式会社 羽反型汁椀
http://www.kiso-nakamura.com/nakamurashikki/concept/hasori