兎村彩野|Illustrator / Art Director

「好奇心による静かな興奮」と「幸福なノスタルジー」、くすぐったさの正体。

昨日の夜、ひさしぶりに、息抜きで夫とジムニードライブをした。我が家の古いジムニーは少し前に修理に出したので随分快適に走るようになった。

二人でドライブをしながら、「そういえば」とおしゃべりが続く。

 

ちょっと昔は、車で出かけると帰り道は大体レンタルビデオ屋さんに寄って「この映画みたい。」とか「これ面白そうだね」とか、夜中に『隙間の光ような時間』があった。

DVDを借りて、コンビニでオヤツを買って、「悪い事しよう!」とか言いながらポテチを食べていた。なんというか、夜のドライブにはそういう隙間の光の時間も全部含んでいたし、あの時間は、妙にワクワクする時間だったように思う。

今はPS4に配信サービスを設定しているので、ドライブをしても寄るところがなく、出かけたら帰ってきて、シャワーを浴びたら歯磨きをしてベッドで好きな映画を選べるという新しい快適な時間がある。あんまり悪そうじゃない感じだなぁとも思った。

 

どちらがいいとか、どういう感じが良いとかではないけど、「レンタルビデオ屋に寄る」という行動は、もう私の人生からなくなってしまったんだなぁと思って、ぐっと来るモノがあった。ひとつ未来へ習慣も含めて感覚が進んだのだなと気付いた。

新しい世界は快適で、より刺激的で、楽しい。もちろんコスパも良く効率的。素晴らしくなってる。どんどん。

 

少し寂しいとか、それが懐かしいとか。新しい習慣に身体が慣れたら、『少し昔』をこんな風に優しいノスタルジーで包み込んで、そっと受け入れたらいいんだなと分かった。

 

新しい世界や価値観の最大の魅力は、ずっとワクワクする気持ちだと思っていた。でも、それと同じくらい、隙間にたくさんのノスタルジーが隠されていた。

好奇心による静かな興奮と、幸福なノスタルジーを両方一緒に感じていいよという、ワクワクとノスタルジーは対になっていた。セットでもらえる感覚だった。

くすぐったさの正体を知ったような気がした。

 

『懐かしい』という感覚は生きてきた時代と歴史全部がくれる物だからこそ、『今』という瞬間がとても大事なのだと知った。この瞬間がいつか未来で懐かしい時間になる。懐かしいは時代と一緒に私が作っていた。

 

『懐かしい』という幸せな感覚は、今を大事に生きているご褒美だった。

未来でそういう『瞬間』はずっと待っている。私たちが追いつくのを待っている。

未来の優しさに気付いて、なんだか心が泣きそうになった。

 

 

「レンタルビデオ屋さんに寄っていたころが懐かしいね。」

「ちょっと寂しいけど、懐かしいのもいいね。」

古いジムニーの車の中、ふたりでそんな会話をした。

 

私たちは優しい世界に生きている。

by
Illustrator / Art Director 兎村彩野。1980年東京生まれ、北海道育ち。高校在学中にプロのイラストレーターとして活動を開始する。17歳でフリーランスになる。子ども向けの絵(NHKおかあさんといっしょの「黒ネコダンス」や「ながぐっちゃん」など)や女性向けの絵、アウトドアの絵を得意する。ドイツの万年質LAMY1本で描く「LAMY Sketch」が人気になる。
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